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函館地方裁判所 昭和38年(行)2号 判決 1966年4月22日

函館市末広町一六番一三号

原告

本間久平

右訴訟代理人弁護士

橋本清次郎

市新川町二六番地

被告

函館税務署長

吉岡節男

指定代理人 中村盛雄

山本和敏

高田金四郎

森麟二

中村市郎

草野尚

右当事者間の昭和三八年行第二号所得税確定申告書金額に対する更正決定処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対し、昭和三八年二月五日付でなした、原告の昭和三五年度所得税確定申告書中の譲源所得一一二万三〇〇〇円を二三四万五〇一〇円とする更正決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、申立

(原告)

主文同旨の判決を求めた。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求めた。

第二、主張

(原告)

一、原告はその所有にかかる函館市田家町七五番宅地(ただし当時の現況は畑)一三三坪、同町七六番宅地(ただし当時の現況は畑)二〇坪、同町一〇八番畑七反一畝二九歩、合計二五〇〇坪(以下本件土地という。)を、後記の経過により、昭和三五年四月一日および同三六年三月二〇日の二回に、各一二五〇坪宛、いずれも坪当り金四〇〇〇円、金額五〇〇万円で函館市に売り渡した。

そして、原告は、昭和三六年三月一〇日、同三五年度所得税の確定甲告をなすに際して、函館税務署に対し、右昭和三五年四月一日の売買による所得金額につき所定の資産再評価をし、法定の計算により、同年度の譲渡所得を金一一二万三〇〇〇円と申告し、申告納税額金三三万〇五四六円を納付した。

次いで、原告は、昭和三七年三月一四日、同三六年度所得税の確定申告に際して、同税務署に対し、前記昭和三六年三月二〇日の売買による所得金額につき、前同様の方法により計算し、同年度の譲渡所得を金一一四万七〇一〇円と申告し、申告納税額金三〇万四〇四七円を納付した。

二、しかるに被告は、昭和三八年二月五日、原告の右昭和三九年度、同三六年度申告譲渡所得について、前記二回の売買代金を合算することにより、同三五年度譲渡所得を金二三四万五〇一〇円とし、同三六年度譲渡所得を零とする旨の更正決定をし、右決定の通知書は翌六日原告に到達した。

原告い右更正決定を不服として、同年二月一四日、被告に対し異議申立をしたところ、右異議申立は国税通則法第八一条第一項によつて札幌国税局長に対して審査請求がされたものとみなされ、その結果、同局長は、同年五月二七日、原告の請求を棄却する旨の裁決を行い、右裁決書の謄本は、翌日原告に送達された。

三、右裁決書によれば、前記二つの土地売買契約は、いずれもこれに先行する昭和三五年二月三日付土地売渡承諾による本件土地全部の一括売買契約であると認められ、右契約は、同年三月一一日の函館市議会における契約締結承認の議決により成立し、農地法第五条に基づく知事の転用許可のあつた同年一〇月一三日に本件土地の譲渡があつたものと認められるから本件土地全部を一括した譲渡であるとした更正には誤りがないというのである。

四。しかしながら本件土地の売買は以下の理由で二つの売買契約によるものとして処理されるべきものである。

(一) すなわち、不動産売買により所得が発生したばあいの契約の効果すなわち税法上の権利の確定する時期について所得税法第一〇条は必ずしも明確でないので、大蔵省国税庁長官より各国税局長宛の昭和二六年一月基本通達第二〇二号により「譲渡所得については権利の確定する時期は売買、競売、公売、交換、収用、出資等によりその所有権その他の財産権の移転する時による。但し、その移転の時が明らかでないものについては基本通達第二〇一号の但書に準ずる。」ものとする。と解釈し、基本通達第二〇一号は「山林所得については権利の確定する時期は立木又は伐木の譲渡により当該立木又は伐木の所有権が移転する時による。但しその移転の時が明らかでないものについては当該譲渡契約が効力を生じた時とする。」と解釈し、大蔵省は譲渡所得について契約の成立よりも先ず権利移転の効力を生じたときをもつて権利の確定したときと考え課税するものであることが明らかである。そして、契約の成立ならびに効果の発生は当事者の意思を推測して定めるべきであるが、権利の移転の日は代金受領ならびに所有権移転登記手続の日であることは契約当事者の意思でもあり、不動産取引にも合致するものである。

(二) ところで、本件土地は函館市が中学校新設用地として必要なため売り渡して欲しいとの懇請を受け、原告がこれを承諾したものであるが、本件土地は農地であり、小作人が耕作していたため、これと離作の交渉をし、ならびにその補償をする必要があり、また市議会の承認を要するのでその手続を経なければならず、市の財政上の事情もあつて、直ちに本契約を締結しがたいところから、右売買契約締結に先立ち原告と函館市の右契約事務担当者との間に、昭和三五年二月三日、ひとまず本件土地の売渡価格を坪当り四〇〇〇円とし、原告が農地転用の手続をとり、小作人に交渉する市が離作補償金を別に小作人に提供する、正式契約は改めて昭和三五年度、三六年度に分けて行う、市において離作補償金を支払うことができないばあい、または市議会の議決を得ることができないばあいは右予約を解除しうる旨の特約のある売買予約を締結した。そして予約完結権は市がこれを保有した。

一方函館市はその頃右中学校新設用地として、原告所有地を含め全部で四七八〇坪(大部分は農地である。)を代金一七九〇万円で購入し、昭和三五年六月一六日から同年八月一日までの間に原告を除く各所有者と売買契約を締結し、同時に売買代金、離作補償金等を一括支払した。原告としても本件土地全部を一度に売り渡したい希望を有していたが、原告の土地だけが代金が高額となるため、右予約交渉のときから、土地を二分して二回に契約を行うことの合意をみていたものである。

そして予約後小作人に対する離作条件の打診、市の財政上の措置、市議会における議決の見透しなどのうえにたつて、予約の趣旨に従い、原告、市間に次のごとく二回にわけて本件土地売買契約が成立した。

(1) 第一の契約

イ 売買物件

函館市田家町七五番宅地一三三坪、同町七六番宅地二〇八坪、同町一〇八番の二畑三反九歩(九〇九坪)、合計一二五〇坪(第一の土地と略称)

ロ 契約の日ならびに物件引渡の日

昭和三五年四月一日契約と同時に所有権移転引渡し完了したるものとする。

ハ 売貴金額ならびに支払期

金五〇〇万円(坪当り四〇〇〇円)、昭和三五年四月一〇日停止条件付所有権移転請求権保全仮登記と同時に支払う。

(2) 第二の契約

イ 売買物件

函館市田家町一〇八番の一畑四反一畝二〇歩(一二五〇坪)(第二の土地と略称)

ロ 契約の日ならびに物件引渡の日

昭和三六年三月二〇日契約と同時に所有権移転の登記をし、物件引渡完了したものとする。

ハ 売買金額ならびに支払期

金五〇〇万円(坪当り四〇〇〇円)、契約成立後原告の要求により何時でも支払う。

原告は、第一の土地の代金五〇〇万円を、昭和三五年四月一一日、受領し同年一〇月中に所有権移転手続をなし、第二の土地の代金五〇〇万円を、同三六年四月八日、受領し、同時に所有権移転手続をなした。

市は、その間において、原告の本件土地全部につき一括して農地法第五条に基づく転用許可の申請手続を行い、これに対して、同三五年一〇月一三日、知事の転用許可があつた。

(3) 以上によつて明らなごとく、本件土地の売買は、第一の土地についての契約は昭和三五年四月一日、第二の土地についての契約は同三六年三月二〇日それぞれ成立し、代金受領と所有権移転手続完了の日にそれぞれ効果が発生し、所得税法上の収入する権利が確定したものというべきであり、従つて第一の契約による譲渡所得は昭和三五年に、第二の契約による譲渡所得は同三六年にそれぞれ属すべきものである。

五、よつて本件更正決定は違法につき取消を求める。

(被告)

一、原告主張の第一項の事実中、原告が本件土地を坪当り四〇〇〇円、総計金一〇〇〇万円で函館市に売り渡したことおよび原告主張のように各申告をし、税金を納付したことは認める。

同第二項の事実は認める。

同第三項の事実は認める。

同第四項の事実中原告主張のような第一、第二の両契約書が作成されたこと、右代金を原告主張の日にそれぞれ受領したことは認めるが、本件土地の売買は昭和三五年二月三日成立の一個の契約によりなされたものである。知事の転用許可のあつたことは認める。

二、右第一、第二の両契約ともその成立は昭和三五年二月三日であり、両契約は一個のものであり、本件土地の讃渡所得は全部昭和三五年度に発生したと認めるべきである。すなわち、

(一) 所得税法第一〇条第一項は譲渡所得について収入する権利の確定した時期を基準とするいわゆる発生主義をとつているが、権利確定の時期については、個々の具体的な契約内容その他法律上、事実上の各種の条件により決せらるべきものであり、基本通達には権利確定の時期を「所有権その他の財産権の移転する時」とし、移転の時期が不明のときは「譲渡契約が効力を生じた時」と定めている。

右通達は税務官庁内部における取扱指針に過ぎず、また税務官庁がこの通達に依拠して課税していることを争うものではないが、右通達に照らしても本件更正は正当である。

(二)(1) すなわち、原告は函館市の本件土地買受の申込に対し、昭和三五年二月三日承諾の意思表示をしたので、ここに原告と市との間に、概ね原告主張のとおりの要旨で、なお(イ)代金については半金を同三五年四月上旬に、残金を同三六年四月上旬にそれぞれ支払い、(ロ)小作人が離作を拒否し、補償金の支払、買収について議決を得られないときは承諾を取消してもよいとの約旨の知事の転用許可を条件とする停止条件付売買契約が成立したのであり、これに対し、市議会は、同三五年三月一一日、本件土地を一括購入する旨を決議し、同年八月までに小作人の離作が完了し、同年一〇月一三日、知事の転用許可があつて右契約は条件成就し効力を生ずるに至り、本件土地の所有権が移転した。従つて。遅くとも同年一〇月一三日までに売買代金債権は確定したのであり、譲渡所得の帰属年度は昭和三五年度である。代金支払が二カ年に及んでも所得の帰属年度に影響あるものではない。

(2) 原告は、昭和三五年二月三日、市との間に予約が成立したと主張するが、乙第一号証の承諾書により成立した契約は予約ではなく売買の本契約である。もし予約であるとするならば、その完結権がどちらにあるかの取極めがなされなければならないのに、右承諾書にはこの点が明らかでなく、また、いつ本契約のための完結の意思表示がなされたかも不明である。また一個の予約について昭和三五年と同三六年の二回にわたつて完結権が行使された結果となる観を呈することになるが、これは矛盾している。かりに二個の本契約があるとすれ、予約当時、昭和三五年、同三六年にそれぞれ売り渡される土地が特定されていなければならない。換言すれば。本契約の内容に対応する本約が二個成立していなければならないのに、右承諾書は二個の本契約を締結することを予定していない、これは単に対価を両年度に分けて支払うという特約にすぎないとみるべきである。

(3) 第一、第二の両契約書の第六条は所有権移転の時期を定めており、それによれば「土地の所有権は本契約締結と同時に移転し」とあるので。表面上は本件土地の一部は昭和三五年に、残部は同三六年に所有権が移転する特約のように見受けられるが、これは全く無用の条項である。なぜならば、

イ、第一契約書(乙第五号証)は土地売買契約書案(同第二号証の二)と、第二契約書(同第六号証)は土地売買契約書案(同第二号証の三)と全く同一の内容である。

乙第二号証の二、三はいずれも同三五年三月三日に発議され、しかも発議当時はいずれも契約書案の日付を同三五年四月一日と予定していたが、原告の希望により市長決済のあつた同年三月三一日に、乙第五、第六号証のように異る日付に作成されるようになつた。しかし所有権移転の時期を二回に分けるという特別の理由があつたわけではなく、所得税計算上の利害を考慮したものにすぎない。

ロ、原告は、第二の契約の土地について固定資産税減免の申請をしているが、これは右土地について原告から市に対し地代相当額の支払いを要求したものの断わられ、固定資産税の減免で我慢してくれといわれてこれを申請したもので、当時、本件土地の引渡は完了していることをその理由としている。

ハ、市としては本件土地を学校敷地として購入したのであるから、もし所有権移転の時期を二回に分けるのが真意であるならば、後に所有権移転すべき土地について所有権移転の仮登記をなす必要があるがこれもなされていない。

ニ、農地法第五条に基づく知事の転用許可申請書には、本件土地全部について所有権移転の時期を昭和三五年一〇月一日と予定している。

ホ、市においては本件土地における中学校建築工事の着工を前同日と予定していた。

その他いろいろの事情を勘案すれば、所有権移転の時期を二回に分ける必要性も合理性もなかつたのであり、結局所有権移転の時期についての前記定めは、その時期を契約成立の時と定めたものというべきで、本件譲渡所得の帰属年度に影響はない。

(三) かりに原告と市との間に、昭和三五年二月三日、予約が成立したものであるとしても、それは本件土地全部を単価坪四〇〇〇で売却するという予約であり、第一、第二の両契約書は売買契約に附随する履行条件を定めたものにすぎない。すなわち乙第一号証(土地売渡承諾書)第四項に予定していた細部についての取極めを具体化したものである。

従って、乙第一号証によって成立した契約が原告主張のように予約であるとするならば、昭和三五年四月までに完結の意思表示がなされているから、本件土地全部について本契約が成立しているといわざるを得ない。

(四) 本件土地について契約書が二通作成されたのは原告の申入れによる税額軽減のため形式的に作成きれたものである。なぜならば、前記二の(二)(3)のロ、ニ、ホの理由のほか、

イ、市は本件土地を一括購入することを予定していた。

ロ、市議会は、同年三月一一日、本件土地全部について買収決議をしているのであって、本件土地は分筆する必要がないのであり、殊に第二契約書の第三条、第五条は、契約書作成当時既に知事の転用許可もあり、小作人との離作補償契約は昭和三五年四月一日に締結し、同年八月までに補償金を完済して離作も完了しているのであるから全く無用で形式的なものにすぎない。

三、以上の事由で本件については原告の減税意図が察しられ、税負担の公平の見地からしても、実質的な判断に基づいてなした本件更正決定は適法であり、原告の主張は理由がない。

第三、証拠

(原告)

甲第一号証の一、二、第二ないし第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第一四号証を提出し、証人外山平治、伊藤卯三郎、本間祥平、兵藤武彦、結城金正の各尋問を求め、乙号各証の成立を全部認めた。

(被告)

乙第一号証、第二号証の一ないし四、第三ないし第九号証、第一〇号証の一ないし七第一一ないし第一六号証を提出し、証人戸城義治の尋問を求め、甲号各証の成立を全部認めた。

理由

一、原告が函館市に対してその所有に係る本件土地を売渡す売買について、原告主張の内容の第一および第二の各契約書が作成されたこと、第一の土地、第二の土地につき地番坪数代金額が原告主張のとおりであつて、第一の土地の代金五〇〇万円は昭和三五年四月一一日原告に対して支払われ、第二の土地の代金五〇〇万円が翌三六年四月八日に原告に対して支払われたこと、右売買につき知事の転用を目的とする所有権移転許可があつたことは当事者間に争いがなく、右売買による譲渡所得について、原告が昭和三五年度、同三六年度の所得税確定申告をなし、これに対して被告が更正決定をし、その通知書が原告に到達したこと、そして原告の異議申立に対し、札幌国税局長が棄却決定をし、その騰本が原告に送達されたことの経緯ならびに内容が原告主張のとおりであることも当事者間に争いがない。

二、被告は第一及び第二の土地の売買は昭和三五年二月三日成立の一個の売買契約によりなされ、農地転用の知事の許可がなされた同三五年一〇月一三日契約の効力が発生したとして、これによる原告の譲渡所得は同年度中に発生したと主張するのに対して、原告は、第一および第二の土地はそれぞれ別個の売買契約により売渡されたもので、第二の土地それは同三六年になされ、これに関する譲渡所得は同年になつてから発生したと主張する。

(一)  成立に争いのない乙第一号証、同二号証の一ないし三、同第三、第四、第五、第六、第八、第一五号証に証人外山平治、同伊藤卯三雄、同結城金正、同本間祥平の各証言ならびに前示事実を総合すると、以下の事実を認めることができる。

すなわち、函館市の教育委員会では中学校建設用地を物色していたが、その担当事務職員においてその適地として本件土地の買受を原告と交渉した結果、これを坪当り金四〇〇〇円、総額金一〇〇〇万円で売買することの下話がなされたものの、代金支払の方法について原告が全額一時の支払いを希望したのに対し、市では財政上の都合から金繰りがつけば三五年中に支払うが、然らざるときは昭和三五会計年度と同三六会計年度(三六年四月)の二回に分けて支払うことを希望したので、原告はその条件として、代金が二年払いになるなら代金を受領する都度税金を支払いたいので土地を半分づつ二回に売買契約を結ぶことにして欲しい旨申し出たので、市側の担当職員もこれを了承し、市の財政部に対する予算要求の必要上ならびに重要財産等の措置に関する条例(昭和二四年条例第五五号)第六条に基づく市議会の議決を得る必要上、原告の売渡しの意思を明確にするため、昭和三五年二月三日、原告は教育委員会が用意した函館市長宛の土地売渡承諾書(乙第一号証)に署名押印した。

そして、函館市教育委員会においては、第一の土地については乙第二号証の二、第二の土地については同第二号証の三の各契約書案を作り、これを添付した乙第二号証の一なる公文書を作成し、ついで同年三月一一日、本件土地(全部)を購入もる旨の議案(乙第四号証)が市議会に提出され、同議会においてこれが承認されたのであるが、右議案提出に際し、市の理事者としては昭和三五会計年度の当初予算で本件土地半分の代金五〇〇万円を措置し、残額の五〇〇万円は一応昭和三六会計年度で支払うことを予定するが、その後の経過で昭和三五会計年度の予算で支払うことの都合がつけばこれを支払おうという含みをもつていた。そして、まず同三五年四月一日、半分に当る第一の土地について第一の契約を結び、代金五〇〇万円の支払ならびに目的土地の引渡を完了し、知事の転用許可前であるので右土地につき所有権移転請求権保全の仮登記を経た。そして農地法第五条に基づく知事の許可申請(許可申請は第一及び第二の土地についてなされた)をした結果、同年一〇月一三日、その許可があり、その後昭和三五会計年度予算で第二の土地に対する残代金五〇〇万円の支払が可能となつたので、同三六年三月二〇日、乙第六号証の契約書を作成して第二の契約を結び、第二の土地が市に引渡され、同月二三日、右土地につき所有権移転登記を経たが代金はその後である同三六年四月八日に支払われた。

以上の事実を認めることができる。これによれば第一の土地の売買は右許可のあつた同三五年一〇月一三日効力発生し、原告の譲渡所得を生じ、第二の土地のそれは、契約締結の同三六年三月二〇日に直ちにその効力を発生し、その時に原告にその譲渡所得を生じたことになる。

(二)  被告は前記のように本件売買は一個の契約によりなされたと主張するので、以下に順次これらの主張について審及するに、

(1)  先ず昭和三五年二月三日付土地売渡承諾書(乙第一号証)により原告と市との間に知事の許可を条件とする停止条件付売買契約の合意が成立したとする被告の主張については、成立に争いない乙第一号証証人結城金正、同外山平治の証言によれば、本件土地買収に当つて函館市は市議会の承認をえたうえ、所定の手続を経て市の権限を有する者において原告との間に買収契約をするに先立ち、その事務担当の函館市の職員において原告の売渡の意向をたしかめ市側の爾後の手続を進める必要があつたので、市財政部に対する予算措置の要求ならびに市議会の承認の議決を得るために、乙第一号証の土地売渡承諾書なる原告作成名義の函館市長宛の書面を原告から徴したものであつて、同承諾書は、市が原告から本件土地を購入するについてこれを確保する意味のものであり、これにより未だ売買の本契約がなされたものでもなく、また法律上の意味における売買予約がなされたものでもないと認めるのが相当である。

(2)  成立に争いのない甲第一、第六号証の各一、二、乙第九号証、証人本間祥平の証言によれば、原告は当初市に対して地代相当額を要求したが断わられ、本件土地に関する固定資産税減免申請をしたものであるが、第一の土地については右三五年四月一日の売買によりその所有権が函館市に移転したけれども、第二の土地については前記認定のとおり同三六年三月二〇日の売買によりその所有権が移転したもので、後者の土地につき同三五年度第二ないし第四期分及び同三六年度第一期分の固定資産税は減免せられないで賦課されたことが認められ、この事実も第二の土地の売買が右三六年三月二〇日に別個なされたもので、第一の土地と一括してこれより前に売買されていたのではないことを窺うに足りる(乙第九号証のうちの昭和三五年五月二五日作成にかかる函館市役所における文書も、その後である同三八年二月二三日函館市教育長決裁にかかる甲第六号証の一なる文書によりその内容の処分が変更され、結局右第二の土地の右固定資産税の減免がなく、賦課せられたことを証拠上見ることができる)。

(3)  さらに成立に争いのない乙第一一号証によれば被告主張のように第二の土地については、昭和三六年三月二四日に函館市のための所有権移転の登記がなされる以前に、同市のためその仮登記はされていないことが認められるが、この事実について被告は第一の土地について仮登記がなされたことと対応せず、第二の土地もこれより前に既に売渡されていたと主張するものの如くであるが、第二の土地につき仮登記がなされなかつたことは、これが別個の契約により前記認定のように売渡されたことの妨げとなるものでないことは明白である。

(4)  前記乙第八号証によれば原告及び函館市長は共同で北海道知事に対して第一及び第二の土地につき農地転用許可申請をなし、その申請書中に権利移転の時期として昭和三五年一〇月一日なる記載が見え、同知事はこの申請を同三五年一〇月一三日許可したことが認められるけれども、証人本間祥平の証言によれば右の三五年一〇月一日の記載は便宣このように記載しただけのものと認められ、権利移転時期に関する右の記載だけで第一及び第二の士地の売買契約の成立の時期が左右されるものでもなく、この点に関する前記本件認定事実を未だくつがえすには足りない。(また右知事の許可の効力が影響をうけものともなし難い)。

また成立に争いない乙第三、第四号証、証人結城金正の証言によれば、市議会は昭和三五年三月一一日本件土地全部について購入のの承認を決議したと認められるが、右決議は単に当該年度内において原告の土地を買うことを承認したにすぎず、この承認は函館市が原告と本件売買契約を締結する前提要件として必要なものであるから、むしろこれより前に前記乙第一号証によりなされた原告の承諾書により契約が成立したものでないのは勿論、この原告の承諾は売買契約締結に関する原告側の申込の意思表示でもないし、承諾の意思表示でもない。前示認定のような下交渉において、市が原告から本件土地を確保する意味合いで徴したものにすぎず、結局市議会の右決議も前記認定の二個の契約の成立につき全く妨げとならない。

成立に争いない甲第四号証、乙第一〇号証の一ないし七、証人戸城義治の証言によれば本件土地を耕作する人々との間で函館市は同三五年四月一日に離作料を支払う契約を締結し同年夏頃までにこれが支払われていることが認められるのであるけれども、この事実があつても、直ちにその頃第二の土地をも含めて本件土地全部の売買がなされたと認定しなければならないものでなく、函館市が支払う十二の土地の代金の支出財源の関係から、この部分の土地の売買成立を見越して右離作料契約がなされたものと推認できるものであつて、二個の売買を否定する根拠とはならないし、成立に争いない乙第六号証の右第二の契約書の第三条および第五条の各項は右契約の当時としては既に無用の事項であるとしても、第一の土地に関して作成された成立に争いない乙第五号証の条項と対比してみて、ほぼ同趣旨のものを例文的に踏襲したものと推認され、第二の土地の売買契約書である右乙第六号証たる公文書が単に形式上仮装して作成されたものとみるわけにはいかない。このように原告と函館市との間で本件土地につき前判示認定の二個の売買契約が締結されたもので、これに関し、予約契約などはなされた事跡はないのであるから、被告のいう予約完結権などは云為する余地がない。

三、以上の理由により、第二の土地の売買は昭和三六年三月二〇日になされたものでこれによる原告の譲渡所得は同三五年中に生じたものでなく、本件第一及び第二の土地に関し(昭和三五年二月三日頃)これを一括して原告から函館市に対し前示認定のように売渡す契約(一個の契約)がなされ、被告主張のように同三五年中に原告にその譲渡所得を生じたとして、同三五年所得税確定申告の譲渡所得につき被告がなした本件更正決定は、原告に同年中に生じた譲渡所得が被告主張の如くではないといわなければなららいから、結局(その余の判断を加えるまでもなく)違法であり、その取消を求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長利正己 裁判官 川上正俊 裁判官 高和畠由)

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